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あなたのかおり。
わたしは他の人より鼻がきくほうです。
季節的なせいもあるのか、最近は前よりももっと色んなにおいがするようになりました。

夏のじめじめした空気のにおいや、光に接した緑の光合成するにおい。
海から帰って来たひとたちが運ぶ潮のにおい、花火が散らす煙と光のにおい、明るくはしゃぐ小学生の体から発散する力のにおい。
ありとあらゆるにおいを毎日嗅いでいます。

夏の終わる、悲しくなるような淋しくなるような、じりじりうるさかった蝉たちが力尽きるであろう死のにおいも、わたしは嗅ぐことができます。
死臭でさえ、この鼻は見付だしわたしに知らせてくれるのです。
それを特異な力と感じることはとうていできません。
まわりを見渡せば明日死ぬひと、今日死ぬひと、あらゆる死がわたしをぐるりと囲んでいるのだから。

わたしの愛する人から死のにおいがしたとき、わたしはこの鼻を潰し、目を潰し何も感じられなくなればいいと思いました。
何も言えないわたしと何も知らないあのひとが横に並んで、つい先日まで蝉の死骸の並んだ並木道を歩くということがなんとも滑稽で、でもこれ以上なく幸せでわたしは泣いてしまったのです。
目頭に溜まる涙は見られないように俯きひたすら歩いたのです。

わたしがあのひとに会うより前に、あのひとは愛するひとを亡くしていました。
写真は家の居間に飾ってあって、モノクロの女のひとがいつも微笑みそこにいるのです。
嫉妬なんてしていません。
あのひとの全てを愛するわたしは、写真の彼女さえも愛しているのですから。

夏が終わったある晩に、秋が来そうなその晩にあのひとはすっとわたしの頭を撫でました。
何度も何度も撫でたのです。
申し訳なさそうな顔をして。
そしてあのひとは目を閉じて、すっとその手を下ろしました。
もう二度と開かないその目と、もう二度とわたしを撫でることのないその手。
あのひとがわたしに遺してくれたのは死のにおいなんかじゃなくて、ひとを愛するということでした。


あなたに出会えてよかった。
雨の日に途方にくれてわけもわからず公園のすべり台の下でうずくまっていたわたしを助けてくれたあなた。
あの日からの十数年間、わたしはとてもしあわせでした。
あなたよりちょっとでも長く生きられて良かった。
わたしと初めて出会ったあの雨の日、あなたも途方にくれていたのでしょう。
愛するひとをなくして間もなかったから、淋しくて仕方なかったからわたしを助けただけだとしても、あなたをまた一人にすることはわたしにはできない。


冷たくなったその頬をペロリと舐めてから、わたしもあの人の横で眠りました。
わたしは知っています。あのひとが知らないことを知っています。

わたしの体からも死のにおいがしていることを。

朝起きたらきっとあのひとがわたしを散歩に連れていってくれるでしょう。
蝉のじりじり鳴く並木道をまた一緒に歩きたいものです。

# by kuru2mawaru | 2006-06-19 21:28 | 詩。

ハニー
ハニー
あなたの目も耳も声も
全てがあたしのものだって気付いたとき
あたしは一体どうすればよかったのかしら

あなたがあたしに捧げてくれたすべてを
あたしはちゃんと受けとれていたかしら

赤くほてったその頬にくちづけた瞬間に
あたしはあなたを自分のものにしたかった
ぜんぶぜんぶが欲しかった

強欲な恋だと笑ってもらって構わないから
陳腐な台詞しかないと嘆いてもいいから
あなたはあたしのそばでそっと眠って

まばたきできないくらいに
あたしはあなたが欲しいのよ
あなたもあたしを欲しいはずだから
欲するこころがひねくれてると言われそうね

ハニー
あなたの頬に陰るまつげのかたちを
あたしは死ぬまで好きでいてあげる
毎日毎晩あなたをすきでいさせてね
飽きるくらい恋人を続けましょ

# by kuru2mawaru | 2006-05-05 20:54 | 詩。

哀しいことば
もっともっとどん底まで哀しくなりますように
どこまでもどこまでも闇が続きますように
はい上がれないほどに体を傷つけられて
ひとりぼっちで死んでしまいますように

# by kuru2mawaru | 2006-05-04 21:41 | 詩。

暖かな大樹。
暖かい場所で暮らしたい、そんな思いからわたしは故郷を捨てたのです。
さむくて古くていやらしい場所を捨てたのです。
暖かい場所がどこにあってどういうものかは存じませんが
自分が住んでいるところよりは絶対にましだと思ったからです。
わたしはひたすら歩きました。
背負った荷物がどんなに重くても歩き続けました。
途中で、らくだに乗った男の人に出会いました。
男の人はわたしの背中の荷物が重そうだからと言って持ってくれました。
わたしは本当はらくだの背に乗せて欲しかったのですが
そんないやらしいことは言えませんでした。わたしの姉なら言うでしょうが。
その男の人はわたしに一体どこから来たのかとか、
年はいくつだとかそんな世間話的なことを語りかけてきました。
男の人はぐびぐび水を飲んでいます。
その水はわたしの荷物の中に入っていたものだったので
やめて欲しいと言うと、急に冷たい顔になり話すのをやめてしまいました。
そしてらくだの歩調が速くなり追いつけなくなったわたしは置いてけぼりを食らいました。
当然荷物は持っていかれました。

途方にくれたわたしはしばらく呆然と空を見つめていましたが
後ろからきれいな声が聞こえてきたので振り返ると小さな女の子が立っていました。
女の子は自分は小学生くらいにしか見えないだろうけれど
本当はわたしと同じ年くらいだといいました。
小鳥がさえずるような声でその子は囁きました。
さっきのあのらくだの男は狐が人間に化けた姿なのだ、
田舎者に近寄ってはあやって荷物をかっぱらってしまうのだ、と。
わたしは田舎者ではないし、狐も信じられませんでした。
しかし、目の前の偉そうな態度の女の子に畏怖してしまい頷きました。
できるだけ話をちゃんと聞いているという風に見せかけました。
女の子は大変きれいな声をしていました。
なんだか眠気を誘う声でわたしはうつらうつらとなってしまったのです。
その瞬間、左足から全身に電気が走ったような感覚に教われました。
左足を見ると真っ赤に染まっていました。
ぱっくりと裂けた膝からは白い肉が見えていてそのさらに奥からは赤い肉も見えていました。
いや、肉ではない。血です。血がそこから噴水のようにぱっぱぱっぱと上っています。
電気が走るような痛みではなく皮膚を裂かれたことによる痛みが走りました。
どんどんどんどん痛みが増してきました。
女の子は右手に日本刀を持ってけたけたと笑っていました。
地面にはいつくばっているわたしに唾を吐くように笑っているのです。
そして日本刀をもう一振りしてわたしに膝に突き立てました。
膝を貫通し、杭の代わりのように日本は地面に突き立てられました。
けたけたと笑い声を残し女の子は姿を消しました。
そこから一歩も動くことが出来なくなったわたしはただ膝を付くのみでした。

そのあと動けなくなったわたしはやってきた動物に頭から丸かじりされたり
ひどいときには少しずつ小鳥についばまれ朽ちる右手を自分で眺めていました。
骨の見えた肩には卑しいハイエナがたかっています。
日本刀は地面に突き立ったまま夕陽を反射させています。
わたしはなんのために故郷を捨てたのでしょうか。
暖かい場所とはどこだったのでしょうか。
流れる血液も枯れ果て地獄にもたどりつけずに無くなってしまいそうです。
さむくて古くていやらしい場所も懐かしく思えます。
わたしは最後の力を振り絞って日本刀を朽ちた右手で抜きました。
しっかりと刺さったそれはなかなか動かずに挫けそうになりました。
肩の骨が抜けて地面に落ちてさらにハイエナがたかってきます。
地面に落ちた両の目でわたしは必死に日本刀を睨みました。
けれどびくともしないので結局わたしはそこで力尽きてしまったのです。
動かない右手の平にモンシロチョウが飛んできてわたしの全身に何かが根付きました。
日本刀の刺さった地面からぐんと木の根が生えてきてわたしの身体に巻きつき
どんどん成長したそれは枝分かれを起し太陽に出来るだけ近づこうと緑を茂らせたのです。
意識が遠のく瞬間にわたしはひとつ思いました。
暖かい場所なんてどこにもない。

大木になったわたしは四季を眺めながら死んでいます。
初めから何もなかったようにそこに息を沈めています。
# by kuru2mawaru | 2006-05-01 18:17 | 物語。

何も。
何もしてあげられないけど
手を握ってあげられる
何もしてあげられないけど
抱きしめてあげられる
何もしてあげられないけど
一緒に泣いてあげられる

何もしてあげられないけど
体一つで愛を表現してあげられる
# by kuru2mawaru | 2006-04-30 21:47 | 詩。

さらさら
風が吹いた
一瞬にして明るい光を
体いっぱいに浴びせる風が
わたしはあなたに好きを見つけた
色んなものごとが
全部どうでもよくなるくらいに
風がわたしを貫いた

たくさんの曲がり角で
きっとわたしは恋をした
相もない恋をした
砂のお城みたいにさらさらこぼれた

風がまた吹き抜けるとき
飛ばされないようにあなたを掴むわ
さらさらと流れるものは何もないけれど
シャツの裾を掴んでいたいから

# by kuru2mawaru | 2006-04-28 22:18 | 詩。

いまの状態
喉と胸が詰まりそうだよ
下を向いてばっかだから気道確保が不十分
ぎゅうぎゅうのこの大勢
投げ掛けられた疑問なんか全部破裂してくれよ
息が出来ない目が見えない
口も聞けない
だったらとにかく上を向きなよ

# by kuru2mawaru | 2006-04-27 21:08 | 詩。

夜中にみた。
今はそんな気分にならないのだ
戸張に身を潜めてうずくまっていたいから
傷をついばむカラスには気をつける
真っ黒な灰を散り散りにするようだから
元気だと言うがどこが元気なのか
苦しいと言っても助けてくれないくせに
不公平な顔してるけどそんなの幻
ちょっとハイになってみたらもっともっと
底まで堕ちたらもっともっと窮屈になるのに……

# by kuru2mawaru | 2006-04-25 20:55 | 詩。

コーヒーを飲む
眠気覚ましにコーヒーを入れようか
湯気越しに蜃気楼をみたよ
たぶんいつでも見れる幻影だね
アンニュイな朝に願いを込めて
今日も一日がちゃんと始まりますように

# by kuru2mawaru | 2006-04-24 20:53 | 詩。

哀しみの伝染
手をつなごう
あなたにもわたしの哀しみが伝わればいいと思うから

# by kuru2mawaru | 2006-04-23 20:18 | 詩。
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観覧車とはすきなひととゆっくり空を横切るための乗り物なのです。

by kuru2mawaru
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